ヴィクトリア時代のイギリス大衆社会の特色がコンパクトにまとめられている。

・絶対的な階級社会。世界最初の産業革命を経て帝国主義への道をひた走る英国。拡大する経済利潤の恩恵を被るのは70%の国民だ。中流階級は上流の生活様式に憧れ、上層労働者は中流を模倣する。置いてけぼりの底辺労働者に救いの手が差し伸べられるのは、ヴィクトリア朝末期を待たねばならない。

・伝統的な自由放任主義は、やがてナショナル・ミニマムの思想へと変化する。ロイド・ジョージによる国民保険法の成立は1911年だが、ヴィクトリア朝末期に福祉国家の基盤が築かれる(公衆衛生改革、工場法、初等教育法)。

・帝国の拡大は国内労働者に恩恵をもたらす。特に一部の上層労働者は下層中流階級の年収を凌駕し、彼らが新時代の政治(労働党・自由党連立政権)、経済(大衆消費ブーム)、文化(ミュージック・ホール、旅行などのレジャー)を牽引する一大勢力となった。

・19世紀末には「帝国の中枢」の末席を占める熟練上層労働者に「特権意識」「帝国意識」が現われる。これにより労働者階級の体制内「取り込み」が行われ、階級対立が緩和される結果をもたらした。植民地に犠牲を強いての階級間和平の実現。

イギリスにおける奴隷貿易についても述べられ、現在に続く格差社会を理解するにも手ごろな一冊と言える。

大英帝国 最盛期イギリスの社会史
著者:長島伸一、講談社・1989年2月発行
2014年10月9日読了

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