近世から帝国主義時代、グローバリスムの進展した近代の熟成期において、「世界各地の庶民生活が、世界システムの作用を通じていかに結びつき、今日の状況をつくりだしているのか」(p10)

人々の具体的な生活のあり方と、その世界システム的なつながり。著者はこの二つを縦横に編むことで、歴史を現実に向き合うものとして眼前に現してくれる。

■都市生活文化
・ロンドン一極集中の理由は、イギリス人のライフサイクルにある。近世から晩婚・核家族社会であり、老親を独りにするシステムが、世界に先駆けて福祉制度を導入させるに至った。(p28)
・1530年代の宗教改革により修道院領は国王の所領へ。これが売り出され、新たな地主が誕生する。商才に長けたジェントリだ。国会議員となった彼らが中心となり、1604年にぜいたく禁止法が全欧州に先駆けて全廃される。
・流行の発信地としてのロンドン。差異化の欲望。上流階級のファッションが下位へ、そして地方へと伝わる。身分不相応の服装は都市化の特徴でもあり、やがて国民的マーケットの誕生へと繋がる。(p45~52)

■経済成長こそすべて
・金融と情報の資本主義を重視する新自由主義の立場と、ものづくりを伴う実体経済を重要視する立場の相克は、実は17世紀から存在し(金融のオランダ、工業のイギリス、農業のフランス)、現在ますます先鋭化しているのは面白い。(p104)
・「経済成長」の概念こそ、ヨーロッパを中核として成立した近代世界システムの基本イデオロギーである。
・中世にこの概念はなかった。アジアの帝国と異なり、ヨーロッパの主権国家間の競争が"国民経済の成長"の概念を育んみ、いまやそれは地球規模の至上命題となった。(p87,110,112)

■ヨーロッパ世界システムの拡大
アジアの「帝国」とヨーロッパの主権国家の違い(p96)
・帝国システム:皇帝統治による平和システム。その反面、皇帝以外の武装を許さない。外界の交渉の遮断。ゆるやかな進歩。
・主権国家システム:政治的に統制されない国家間の兵器開発競争、経済競争。そこから生まれる"成長"の概念。
アジアの帝国と異なり、ヨーロッパの主権国家間の競争が"国民経済の成長"の概念を育んみ、いまやそれは地球規模の至上命題となった。「経済成長」の概念こそ、近代世界システムの基本イデオロギーである。(p112)

■なぜ世界最初の産業革命はイギリスだったのか
・産業革命を消費の側面から見ると、なるほど、実に興味深いな。工場での雇用が女性の可処分所得を増やし、それが台所用品などの鉄製品、衣料の生産増大にスパイラル的につながる。(p202)

■帝国の解体
・1926年のバルフォア覚え書きとして知られる。これを明文化したのが、1931年(昭和6年)のウェストミンスタ憲章だ。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、ニューファンドランド(1949カナダの一州となる)各自治領に完全な立法上の独立を与えた。
・これが帝国の解体に至る嚆矢となる。インド、パキスタンの分離独立、スエズ運河地域からの撤退と中東の放棄、1960年代のアフリカ諸国の独立へと続き、ヴィクトリアの覇権は終焉を迎えることになる。(p226)

小さなエピソードとその背景を知り、歴史の大枠をとらえる。そんな知的好奇心を満たしてくれる興味深い一冊だった。

イギリス近代史講義
著者:川北稔、講談社・2010年10月発行
2014年10月22日読了

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