1930年代東京の華族社会を舞台に、自由奔放さと相反する閉塞感に悩む青年子爵、清彬を主人公に、親友の陸軍中尉、その妹である万里子、権力に陰りの見え始めた元老、特高刑事を軸に物語は進捗する。

本書のタイトルは絶妙だ。人生のRomanceをどう捉えるかは個々人によって異なるし、同じものはあり得ない。
作者の提示したRomanceもその一つ。これがわれわれ読者へ投影されるとき、どう「舞台」を生きるべきか、考えさせてくれる。

・アブサントの香る殺人現場で、落ち着き払って親友との会話を愉しむ余裕はこの階級ならではか。

・天皇の藩屏。没落ロシア人とのクォーター=異端者として特権階級を生きる清彬にとって、何不自由ない華族の生活は、まるで操られた人形劇のよう。その操り糸を断ち切る”決意”と”計画”は革命的であり、哲学的なものですらある。

・”計画”のその日、意想外の人物が訪れることで、清彬の奥底に潜んでいた真実が明らかにされる。


清彬の”決意”は力強い。だが「この世界をからくり小屋たらしめていた特別な一本の糸」(p215)を断ち切ることで、本当に「茶番劇は終わりを告げ」るのだろうか。明治憲法から戦後憲法に変わったところでこの国の本質は変わらないように、舞台装置が変わるだけ。何千年も続いた神話が終わることはないのではないか。

欲を言えば、もう少し、時代の特徴である帝都の華やかな場面描写が欲しかった。


ロマンス
著者:柳広司、文芸春秋・2011年4月発行
2015年2月16日読了

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