神戸新聞の書評を読んで購入した。構想10年、二段組み541ページの大作だ。

20年に渡りブラジルやオーストラリアで資源買付を経験してきた超高性能水晶発振子メーカの凄腕社長、藤岡が次に飛び込んだのは東インドだ。気の抜けないなどの普通の言葉では表せない。その葛藤のすさまじい社会は「グローバル・スタンダード」を鼻で嗤う。

部族社会に溶け込んだイギリス人インドNGO職員、エリートの論理で藤岡を突き放すインド人NGO職員、東インドの採掘会社の社長、等々、それぞれの常識、あるいは正義を持って事業にあたる男たちの、それがゆえにぶつかりあうドラマは骨太い。
混沌たる世界でぶつかりあってこそ人は人たり得るのだな。

そして、すべてを超越した先住民の少女、ロサの存在が、作品にマジック・リアリズムの光彩を与えてくれる。

・部族社会とNGOの協力を経て高純度の水晶原石の商取引の信用を築けたと思う間もなく、相手の要求はエスカレートし、約束は平然と破られる。教育なく搾取され続けた民衆の性向か、そこに罪悪感はない。解決策は「理不尽で圧倒的な暴力しかない」(p358)のか。
・この世のものとは思えない格差社会。そして混沌たる世界そのもののインドには、法などあって無きがごとし。主人公の藤岡ではないが、読書中に何度も「ふざけるな」と声を上げそうになった。
・第三章。スラムに好んで住む地主の息子の人柄に惚れたのもつかの間、高等教育を終えたエリートである彼は藤岡の正体を見抜き、「国家戦略物資」の取引を巡っての確執が生じることとなる。
・「生産コストの安さは単に賃金の安さではなく、人の命の安さでもある」それは「日本を一歩出れば当たり前のこと」で、人間とはこういうものか(p460)。
・だからなのか。貧しい村落に溶け込む過激派の活動はとどまるところを知らない(p516,529)。
・持続可能で再生可能な貧困(p419) 根は深い。

「人は往々にして命以上に執着するものを見つけてしまう」(p181)
藤岡が心血を注いだ事業の結末は、この世界では当然のことなのだろうか。

そして、ロサの幸せな人生を願わずにはいられない。

インドクリスタル
著者:篠田節子、角川書店・2014年12月発行
2015年2月21日読了

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