緋色の研究や四つの署名を超える長編。非現実的な要素の絡め方も見事であり、とても面白かった。

・なんと言っても風景描写! 煤煙のロンドンではなく、イングランド南西部の荒涼としたムーアの情景が目に浮かぶよう。それにクライマックス直前、澄み渡った夜空の下、「ムアの半分を覆っていた白いふわりとした霧のかたまり」に包まれる様は、突如として眼前に現れる魔犬の場面を盛り上げてくれる(p323)。

・ステイプルトンの「妹」といい、ライオンズ夫人といい、女性の弱い立場がクローズアップされる作品でもある。時代とはいえ、辛いな。

・先史時代人の石室での再会。ワトスンの心のありようが紙面から伝わってくるこの場面は、本作の見せ場の一つだと思う(p265)。

シドニー・パジット氏による挿画とオックスフォード版の充実した解説により、ホームズ世界を思う存分楽しめる一冊となっている。
スピンオフ作品は数あれど、やはり本家は何かが違う。

訳者あとがきには、本作に現れた作者の深層心理が研究されている。ドイル氏の家庭事情との関連性が詳しく記述されるが、研究者層ならともかく、本書の読者層には必ずしもマッチしないと思う。少し残念だ。

THE HOUND OF THE BASKERVILLES
シャーロック・ホームズ全集⑤
バスカヴィル家の犬
著者:Sir Arthur Conan Doyle、小林司、東山あかね(訳)、河出書房新社・2014年4月発行
2015年3月14日読了

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