中編『ガスパール・ルイス』と5つの短編を収録。海洋経験豊かな作家の、国際色に満ちた作品を気軽に楽しめる一冊。

『AMY FOSTER エイミー・フォスター』(1901年)
中欧からの漂流者にとって、イギリスの僻村での生活はあまりにも異質な環境であった。
出会った女性との結婚生活。だが完全に理解しきれなかった男女が恐怖と嫌悪の感情を掻き立てる悲しさよ。
想像力のベクトルさえ違っていれば、別の運命=幸せが切り開かれたであろうに。
コンラッドは「異質なもの」への理解の困難さを見事に描き切った。

『GASPAR RUIZ ガスパール・ルイス』(1906年)
チリ独立戦争にあって、市民軍兵卒から大尉、後に王党派軍大佐として軍功を挙げる「強い男」の物語。
スペイン王党派軍と市民軍の血で血を洗う戦いの中、運命に翻弄されながらも力強く生きようとするルイスの素朴な魂は、周りの者をひきつけてやまない。だがある娘との結婚が、その"従僕のような忠誠心"と相まって、運命を変えてゆく。
「わが娘」を救出するルイスの底力には驚かされたが、死に臨んでの妻の言葉は、慰めとなったであろうか。
そして終わりを理解した妻=王党派の一族の娘の最期の「行動」は、ルイスの一生にどんな意味を残したのだろうか。

『THE INFORMER 密告者』(1906年)
無政府主義者の集団に潜入捜査した警察官の悲劇。
一途な固い信条も人生も淡い恋の前にはもろいもの。
だが、それもいいのではないか。そう思わせてくれる一編。

『IL CONDE 伯爵』(1908年)
ナポリで邂逅した伯爵。その人柄と品位に私は惹かれる。わずか1か月の別離により、彼が別人のように変貌を遂げた理由とは何か。
絶対的暴力への接触。異種の人間に接して人は底力を問われる。
非の打ちどころのない上流人士の、あまりにも弱い側面が浮き彫りにされる。

他に『武人の魂』を収録。

コンラッド短篇集
著者:Joseph Conrad、中島賢二(編訳)、岩波書店・2005年9月発行
2015年8月13日読了

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