図版約200点が掲載され、万博会場の熱気が伝わってくるようだ。

「この世に存在する商品は、そのルーツをたどってゆくと、かならずといっていいほどパリ万博に行き着く」(p161)
ともすれば1851年ロンドン万博の影に隠れがちだが、商取引形態の刷新、近代工業的価値観の国民への浸透、貿易価値観の転換などの影響の大きさなどから、1855年および1867年パリ万博こそ本質的であったと、本書を読み終えたいまは言い切れる。

・サン=シモン哲学の発現。本書に何度も登場する「人間による人間の搾取から、機械による自然の活用へ」という産業主義的思想が、1867年の第二回パリ万博で現実のものとなる様子は感動的ですらある。

・サクソフォン、ミシン、洗濯機、バカラ・グラス、いまや当たり前になった既製服。1855年パリ万博で生まれた品たち。そして「美食の国、フランス」の概念も万博の産物だという。

・5章と6章。まるで1867年第二回パリ万博会場に立ち寄った気分にさせてくれる詳細な記述に圧倒される。写真が残されていなくとも、イラストと文筆の力でここまで再現できるとは恐れ入った。

サン=シモン主義の理想とフランス帝国主義戦略の紐帯。第8章にあるように「もしあと10年第二帝政が存続していたら」、後年の万国博覧会、いや、各地に現存する美術館・博物館をすら、その歴史観すら内包する「世界博物館」がパリ郊外に建設され、現在も拡大発展し続けていたであろうと想像できる。
それでもインターネット社会は、サン=シモン主義の理想を19世紀のパリに実現したシュバリエにしても予想しえなかったであろうし、彼の理想を上回る理想郷が顕現したという意味で、熱情=人の理想への探求心こそ、未来への遺産だといえよう。


絶景、パリ万国博覧会 サン=シモンの鉄の夢
著者:鹿島茂、河出書房新社・1992年12月発行
2015年9月16日読了

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