新興国家アメリカは、何故に東洋の辺境国家、日本を鎖国から解かねばならなかったのか。
その強い意志を持った人、米海軍最高幹部としてのマシュー・C・ペリーの視点から「日本遠征航海」が綴られる。

・捕鯨船の補給や遭難者の救助。こういった商業上や人道上の問題もさることながら、米海軍の世界戦略上、日本は最初にアメリカを国交を結ばねばならなかった。すなわち太平洋航路を切り開き、イギリスに代わってアメリカが新しい海洋支配国となるために。

・日本遠征は突然になされたのではない。英雄となった亡兄の重圧を背負いながらも、膨大な予算をかけて米市民やオランダから資料をかき集め、ペリーは着実に準備が進めた。それだけに、海軍省と国務省の文官の存在、駐シナ弁務官の横やりや、列強の干渉はペリーを苛立たせた。ましてや洪秀全による太平天国の乱だ。それらの厄介ごとを豪胆に振り切って、新設なったアメリカ東インド艦隊がシナから日本へ出港する様は痛快ですらある。

・沖縄の米海軍基地化。これを日本開国直前にペリーが始めたとは知らなかった。その地勢から、なるほど、アメリカは彼の地を手放さないはずだな。

・幕藩体制。その支配層の知性と国家統治のありようにペリーが関心を抱く様子は、小説とはいえ、江戸幕府250年の歴史を想うほどに感慨深いものがある。これを「御維新」で過去のものにしてしまったことは、本当に正しかったのか。

・新しい海軍長官が日本開国よりもシナ情勢への優先対応を命じるに対し、現場の機知を持って返す様は痛快だ。そして自らこう手紙に書き記す。「東インド、チャイナ、およびジャパンの諸海域における合衆国海軍司令官」と(p222)。すなわち今日の米海軍第七艦隊の誕生か。

ナポレオンのエジプト遠征。政治的・学術的効果はどうであれ、征服行為そのものに意味を見出すペリー。
「ナポレオンが征服したのは、いわば人類の記憶だった。…ああ、男子たるもの、永遠の価値を求めなければならない」(p101)
兄の軛を逃れ、本当の英雄になるためには、彼個人にとってのエジプト、すなわち日本の開国が必要であったとするストーリーも興味深かった。

ペリー
著者:佐藤賢一、角川書店・2011年7月発行
2015年11月22日読了
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