19世紀後半から第一次世界大戦期にピークを迎え、現在も姿かたちを変えて存続する帝国主義。本書は、その歴史をホブソン、レーニン、ウォーラスティンらの著作やナショナリズム論、社会ダーウィニズムなどから俯瞰し、世界の一体化と亀裂・分裂といった視点から帝国主義の現代的意義を考察する。

本書の裏表紙に掲載された有名なイラスト、「アフリカ大陸を一跨ぎし、両手を広げてポーズをとるセシル・ローズ」が、何よりも帝国主義の本質を表している。

・自由貿易帝国主義論(p13)、社会帝国主義論(p15)、従属理論(p16)、世界システム論(p22)。これら先人の研究から、16世紀から21世紀にかけての歴史的過程こそ、帝国主義そのものであることがわかる。19世紀後半から1914年までの時期はその典型であり(p20)、20世紀後半の数多の植民地の独立でさえ、イギリスからアメリカへの覇権国の変遷による帝国主義の変化の一つにすぎない(p25)。

・「強国が国境をこえて他国あるいは他地域に政治的・経済的支配や影響力を広げ」、国家間の対立が激化する現象(p24)。これが帝国主義の一面であるなら、今日の金融支配・競争ならびに多国籍企業による広範かつ不透明な途上国への進出こそ、現代的意味を帯びるものといえよう。

・19世紀のグローバリゼーションは世界をどう変革し、今日に何をもたらしたか。インドおよびアフリカの急激な鉄道網の敷設はいっそうのモノカルチャー化をもたらし(p34)、工業製品の一大消費地の役割を増大させた。途上国の貧困の遠因はここにある。

・奴隷貿易の終焉は、その過酷な低賃金労働を中国人およびインド人のクーリーに転嫁しただけでなく、労働市場を巡って先進国非熟練労働者との競争を激化させた。これが後に似非科学的人種差別主義とつながり、AA諸国民に対する排斥運動を生み出す。

帝国主義戦争。特に西欧と中欧の覇権競争から生じた第一次世界大戦は、やがて被抑圧民の意識に変化をもたらす。白人に対する「われわれ」の自我の目覚めと期待。イギリス軍の実に13%をインド兵が占めた現実(p79)。ベルサイユ条約で植民地の期待が裏切られた結果、彼らの自我はナショナリズムに変質を遂げ、大規模な反帝国主義運動のうねりを生み出した。
人間の優劣を人種差におきかえ、少数「優秀民族」による多数「劣等民族」の支配を正当化する帝国主義の時代思想(p86)は過去のものとなったが、いまなお残る世界の「分裂」の不可逆的克服の道のりを強く意識せざるを得ない。

世界史リブレット40
帝国主義と世界の一体化
著者:木谷勤、山川出版社・1997年8月発行
2016年3月24日再読了

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