空き巣グループから独立して東京を活動の場とするプロのスリ師。生死不明の昔の仲間を思い、淫売女とその息子を知る。希望の見えない日々に、とてつもなく大きな悪が接触し……。
人の生まれは、その後の彼の生態を縛り付けるのか。著者の答は是であり、思いは否である。

・「時間には、濃淡があるだろ」(p27)
・「惨めさの中で、世界を笑った連中だ」(p87) 希望のある言葉だ。
・13章、桐田のバッグから携帯電話を盗む描写力に唸らされた(p133)。時間を支配する意識とは、こういうものなのか。

支配する者とされる者。その複合的構造への叛逆こそ、生命力の源泉となる。そんな読後感を抱かせてくれた。
大江健三郎賞を受賞した本書は『土の中の子供』の衝撃こそないものの、間違いなく著者を代表する傑作と言えよう。

掏摸
著者:中村文則、河出書房新社・2013年4月発行
2016年6月3日読了
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