『銃』
スリリングな罪と青春の痕跡。背徳感を振り切った人はどのような行動に至るのか、興味深く読み進めることができた。

・拳銃を我が手に収める瞬間、その感情が、抑制された歓喜が伝わってくる(p15)。
・一度でも生き物を撃つと、人はどうバランスを崩すのか。p106以降の「変遷」は不気味でもある。
・そして力の行使は正当化される。「自分の存在を揺るがすような、密度の濃い、恐怖」(p168)

あっても良かったはずの、違う未来(p176) を思うとき、すでに違う種類の人間へと変遷した現実を、主人公が意識することはない。
持て余す力に、逆に使役される悲劇がここにある。

『火』
幼少の火、絶望の十代、破綻した結婚生活、その後の残り火のような人生。
自らの存在を肯定できない生き方。しかし、その確かな存在と悲しさを、淡々と語る女性の、次の選択は、より深い黒なのだろうか。


著者:中村文則、河出書房新社・2012年7月発行
2016年8月13日読了

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