明治37年――1904年、日露戦争の時代――本郷区駒込千駄木町の界隈に住まう人士の多彩なエピソードを愉しめる。

・夏目家の内情が面白い。アッパーミドルでありながら金策に労苦を費やした理由、書物・学問優先の夫婦関係、ノイローゼによる暴力、宅地裏手の学校への燦々たる思い(「猫」のエピソードを生んだ)、等々。

・「猫」が売れたためか、舞台とした千駄木に腰を据えて住む気になったのが面白い(p204)

・「余は余一人で行く所まで行って、行き尽いた所で斃れるのみである」(p313)ロンドンで培われたこの精神があってこその漱石だと思う。

文庫版オリジナル「千駄木以降の漱石」は、透明な諦観に満ちた人間社会に触れる件が良い(p330)。
英語教師から国民的作家"漱石"の誕生へ。その時代の空気感を存分に味わえる一冊である。


千駄木の漱石
著者:森まゆみ、筑摩書房・2016年6月発行
2016年7月20日読了
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