30歳のフランス人、ジャン=パスパルトゥー氏は腰を抜かすほど驚いただろう。なにしろロンドンの屋敷に雇用された日の夜に、世界一周旅行に随伴するよう、それもいますぐ出発することを、新しい主人のフォッグ卿より告げられたのだから。
80日以内に世界を一周をして戻ってこられるか? フォッグ卿が仲間と賭けた金額は実に2万ポンド、現代の邦貨にして、なんと4億円を超える。

・文明の利器の象徴である蒸気船、蒸気鉄道に加え、インド帝国、新興国アメリカ、エキゾティズム漂うアジア、日本を題材に大いに冒険心をくすぐる場面が展開される。
・ボンベイ、ベレナス、カルカッタ。象の背に乗ってのインド亜大陸横断、寡婦の火刑にされるサティーの現場からのアウーダ夫人の救出劇、狂信的な坊主との対峙など、読みどころが多い。
・香港のアヘン窟の罠。パスパルトゥーの失敗。出航に間に合わない事態に遭遇しても「なぁに、ちょっとした事故です」(p189)とフォッグ卿の言ってのけるシーンは気に入った。
・大嵐を乗り越えて上海に着き、サン・フランシス汽船で横浜に立ち寄る一行。横浜ではパスパルトゥー扮する天狗のパフォーマンスが披露されるが、まだ日本は蛮国扱いなんだな(p231挿絵)。
・北米大陸の大横断。モルモン教、鉄道を横切る1万2千頭のバッファローの群、襲い掛かるインディアンとの死闘、雪中の捕虜救出劇を経て、ニューヨークへ。また大西洋汽船は出航した後だった。この危機を乗り越える手腕も、超人フォッグ卿の魅力の一つだ。
・電気時計(p27)、携帯用印刷機(p283)など、当時の意外な先進技術に驚かされたりもする。

賭けの結果はどうだったのか。勝負よりも、その過程で得たものにこそ、人は誇りを持つべきなのだ。
1873年の作品だが、現代でも十分に通用するダイナミックな冒険活劇の傑作。19世紀の欧州人を熱狂させたのも納得だ。

LE TOUR DU MONDE EN QUATRE-VINGTS JOURS
八十日間世界一周
著者:Jules Verne、田辺貞之助(訳)、東京創元社・1976年3月発行
2016年12月1日読了

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