戦前の上海。繁栄を謳歌する1942年から敗戦の混乱に窮する1947年までの国際都市を舞台に、ミッドウェーで大惨敗を喫し、敗戦へと転がる日本と日本人の悲運を予感しつつ、それでも日常を歩もうとする強い女性、八島多江子の姿と邂逅する男たちの姿が描かれる。
上海租界のモダニズムに重ねられた、哀哭の運命を直視するひとよ。

・なんといっても上海の描写が素晴らしい。まるで当時を旅した気分にさせてくれる。
・人気画家として、当時の最新ファッションを身にまとい、才気あふれる活発な多江子は実に魅力的だ。その秘めた過去でさえ自ら活用し、運命を切り開いてゆくさまも、強さのあらわれだろう。
・槙の冷徹の裏に秘めた情熱も良いが、夏のようにスケールの大きな人物は男からみても良い。瑠偉は論外。
・「明日確実なことなどなきに等しい。だから、時間を無駄にしたくないんです」(p181)は的を得ている。
・気になった点がひとつ。上海入港直後に、岸に上海を案内される場面で「アール・デコ建築…」のセリフがあるが、当時からこの呼び方が一般的だったのだろうか。

人生的スケールの大きな物語は読んで心地よい。終盤、生と死にまつわる多江子の考えの変遷が披露されるエピソードも、「最期」を迎える槙の心情も、心に染み入った。

月下上海
著者:山口恵似子、文芸春秋・2013年6月発行
2017年1月17日読了

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