「後世の歴史家は、一九二六年、モダーン・ガールの言葉が新聞雑誌に現れた時を一紀元として、その日本の男女社会を論ずる筆を新しくするであろう」(p403)とある通り、1980年代の日本における男女雇用機会均等法などが整備された遠景に、1920年代のモダン・ガールのセンセーショナルな登場があるように思われる。
本書は16編の小説、9編の論評・座談会と、小コラムから構成され、大正末期から昭和初期にかけて都市に活躍し、悩み、恋して生きたモダン・ガールと周囲の人物の醸し出す雰囲気を堪能することができた。

■堀辰雄『不器用な天使』
都会生活を満喫する若者と女、その揺れる心。スピーディな文章が時代の躍動を感じさせる。

■丸岡明『霧』
別荘地を舞台に女学校出の女子の一ページが描かれる。若い大学講師と会うどぎまぎ感が伝わってくる。モダンな文体をとことん楽しめた。
「こんな神経須弱のニヒリストは、ジャズを聞いて気が狂うといい」(p47)

■吉屋信子『ヒヤシンス』
「おお糧のためには愛する人をも裏ぎる恐ろしい屈辱――」(p146)
没落した中流家庭の子女の運命に、「独立した職業婦人」であるタイピストの置かれた弱い立場。泪の文字が似合う、胸の痛む一篇。

他に、冒頭の少女堕胎手術が衝撃的な龍胆寺雄『魔子』、48歳独身女性の恋愛観を描く深尾須磨子『マダム・Xの春』、ダンサーの悲しい恋を描く村山知義『スパイと踊子』、ステッキ・ガールと円タク・ガールの妖艶さが光る久野豊彦『あの花! この花』、モダンガールを超越した大陸の少女の印象的な久生十蘭『心理の谷』等を収録。

モダン都市文学Ⅱ モダンガールの誘惑
編者:鈴木貞美、平凡社・1989年12月発行
2017年2月12日読了

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