社会的使命、個人的事情、興味と自己満足。理由はどうあれ戦地に赴き、ファルージャの地でイスラム過激派の人質となった5人の日本人の運命を、囚われた男女、イスラム戦士、日本人ジャーナリスト、家族、社会の側面から描き出す。
それにしても「自己責任」、あまりにも政府に都合の良い言葉の暴力にさらされるとは。

・イラク人のためのNGOで働き、囚われの身になってからも他人を気遣い、隣人愛を説いてきた静香の最期は壮絶だ(p189)。励ましあいの『蛍の光』が哀しみの唱歌と化して……。クリスチャンとムスリムの反目は、かように一個人の運命を歪めてしまうのか。

・人質ひとりの殺害に対し、街全体の破壊をもって報復する米軍の恐ろしさもさることながら、作中のイラク聖戦旅団の「人質を殺害する理由」には疑念が生じる。無作為に他人の命を交渉の手段とするは聖戦士に非ず、犯罪そのものであろうに。その意味で、彼らは自らがテロリストであることを自覚しなければならない。

ラスト近く、優樹と海男の運命の分かれ道。その理由の残酷さには、うなだれるしかない。
それにしても、政府は国民を護らない。彼らは彼ら自身を守るための存在でしかない。そんな当たり前のことを再認識させてくれた。

パレスチナ、アフガニスタン、イラク、シリア。戦火と怨嗟の連鎖の続く中で他人の命を想う。それは光明へとつながる生き方となりうるだろうか?


砂漠の影絵
著者:石井光太、光文社・2016年12月発行
2017年2月17日読了

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