読書後の静かな余韻。それは女主人公ソーニャの平凡な一生を彩る重厚な物語によるものだ。ペレストロイカ以前のソビエト時代の空気、第二次世界大戦、変わり者の友人たち、そして、世にも希な家族愛のかたち……。

・本の虫の少女時代から電撃的な結婚、愛娘ターニャを囲む芸術家の夫との貧しくも幸せな生活、成長した娘との確執までは穏やか。娘の友人で美女であるヤーシャの登場により、幸せに変節が訪れる。

・家族愛の変節。それでもすべてを受け入れるソーニャの懐の深さはロシア的というものか。

・「光を放つような声」(p20)、「宇宙の星がみな、興味津々といったふうに目を輝かせて」(p91)の表現が気に入った。

・終盤、夫の葬儀を「はじめての個展」に仕立てるソーニャの決断と行動力は印象的で、羨ましくもある(p127)。

ところどころに見出される洗練された表現は、実に心地よい。ロシア文学の愉しみを味わえた。

Сонечка / SONECHIKA
ソーネチカ
著者:Ludmila Ulitskaya、沼野恭子(訳)、新潮社・2002年12月発行
2017年10月24日読了
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