駆け出しの弁護士だった「ぼく」は恋をした。ぼくに向かって階段をゆっくりと降りてくる女性。絵の中のヌーディスト、モデルとなった女性のぬくもりに。
「若いころの小さな敗北」(p135)もし、あのとき、一緒に逃げることができていたならば……。
あの感動が忘れられない『朗読者』の著者の最新作だ。

・40年を経ての「告白」。第二部・19章からの展開は胸を痛めさせる。東西に分断された国家、過去の自分、自ら望んだ未来への選択。4人の邂逅したシドニーの磁場に、それぞれの人生が吸い寄せられてゆく。

・第三部。二人の新しい過去を語ることは、未来への約束へとなる。人生の最期に、選ばれなかった自分たちを生きること。淡々と歩み続ける過去は、ただただ美しい。

・ラストは静かだ。人生=世界の終焉とは、実はこんなものなのだろうか。

「ぼく自身が当時のエピソードを終わらせ、それに意味を与えなくてはいけない」(p73)
タイトルの『階段を下りる女』の真の意味は、第三部・15章に収斂される。「もう一度……海辺へ行ってみたいの」(p200)長い道の途中でたくさんの人生、たくさんの約束を想いながら、一歩一歩下りてゆくイレーネの姿は、あの絵画とあまりにも乖離し、痛々しくもある。それでも「ぼくとイレーネ」の旅の終わりに、人生の確かな意味を見いだせたものと信じたい。

Die Frau auf der Treppe
階段を下りる女
著者:Bernhard Schlink、松永美穂(訳)、新潮社・2017年6月発行
2017年11月20日読了

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階段を下りる女 (新潮クレスト・ブックス)
ベルンハルト シュリンク
新潮社
2017-06-30