現代世界の成り立ちを追究すると、19世紀後半の帝国主義の時代にたどり着く。過去の土壌の中に、われわれが生きている世界の根源をたどる試みである(p1)。

・グローバルなシステムを形成する二つの世界、すなわち先進的世界と従属的世界(p25)の結合のありようが、豊かな支配者=貧しき非支配者から成る19世紀の世界を特徴づける。格差の拡大は、たとえば18世紀には欧州を凌駕していた中華帝国を後進国に追いやった。
・自由主義的立憲政治や民主主義を目指す制度的発展は、精神的道徳的改善を示す(p44)。
・19世紀最大の劇的な革新技術、すなわち強力な蒸気機関に牽引される鉄道と電信技術のもたらしたものを概観すると、確かに、前世紀とは隔世の感がある(p40)。
・帝国の時代の世界経済の特質。それは地理的基盤が拡大するとともに、英国独占だった商品経済は世紀を超えて多元化し、一方で金融・商船事業はますます英国のみが突出するに至った。まるで現在の米国の軍事力を見るようだ。技術革命と、それにともなう経営手法への科学的方法の採用、そして政治の漸進的民主化に伴う社会の変革がみられるなど、先進的世界の変化はすさまじいものがある(p72)。
・資本主義が存続して作り出すのは生産物ではない。貨幣である(p57)。
・帝国主義とは、競合・敵対する工業国家間の自然発生的副産物であり、一部の歴史家を惹き付けてきた「インド航路防衛のための」戦略的なものではないと明言する(p94~96)。
・この帝国主義の時代に、内政面では貴族の保守主義、あるいはブルジョワジーによる19世紀的な自由主義から、大衆を基盤とする国家像への変遷が見られた。そのための「伝統」の創生であり、各種記念日や戴冠式などの国家的行事がそれを支える構図。第四章「民主政治」では、支配体制への議会制民主主義の取り込みが完成する様相が記される。

内容は充実なるも、いかんせん、訳文が読みづらい。もう少し工夫してほしかった。

THE AGE OF EMPIRE 1875-1914 Ⅰ
帝国の時代1875-1914 Ⅰ
著者:E.J.Hobsbawm、野口健彦、野口照子(訳)、みすず書房・1993年1月発行
2018年1月14日読了
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帝国の時代 1――1875-1914
E.J.ホブズボーム
みすず書房
1993-01-09