「ノンストップ・美術ミステリ!」とうたわれるだけあって、葛飾北斎、モネ、ゴッホ、浮世絵、印象派。究極を夢見る画家の志、諜報、そして国運。絵画に秘められた謎が物語を盛り上げてくれる。
美術のみならず、創作に携わる者が持つべき「心得」も随所に散りばめられている。

・銃撃v.s.剣撃。カタコンブでの追跡劇には心躍るものがある。そして「……に会いたかった」と心情を吐露する男の辛さよ(p354)。
・講和会議の全権大使、ウィッテと小村の物語にも注目だ。神経の張りつめる心理戦と、ホテルでの穏やかな邂逅。男の人生の価値が決まる瞬間は、光の放たれるようだ。こういった男たちと酒を酌み交わしたいものだ。
・キーワードは、塩田龍次郎の「記憶の美術館」だ。「パリ編」の最終段に、その真価が発揮される。
・「ポーツマス講和会議編」のラスト、シャンパンをらっぱ飲みのシーンが実に良い。涙はなけれど男泣き(p487)。

「ポーツマス編」「パリ編」と物語は続いて、突然の「帝都東京編」は……必要かな? と思ったが、著者の絵画に対する知識や思いやりが十二分に伝わってくるエピソードだった。「志乃の気持に応えるつもりはなく、気持ちだけを抜き出して絵にしている」(P427)や「射しこむ光はどこか湿気を含んでいるような」(p431)の件が気に入った。これが龍次郎つながりとは、見事。

ポーツマスの贋作
著者:井上尚登、角川書店・2017年12月発行
2018年2月7日読了
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