男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

書籍・雑誌

慶応時代に遡る外国人居留地の誕生から、モダンでハイカラな神戸の歴史は始まった。外国人によって「発見」・開拓された六甲山と海港に挟まれた風土は、自然と異国情緒豊かな都市文化を生み、それが生活に深く浸透し、150年の時を重ねてこんにちの神戸を育んできた。
本書はデザインの観点から、著者の膨大なコレクションをもとに40のテーマに沿って神戸の特徴を探る一冊となっている。
・欧米人だけでなく華僑、ユダヤ人、トルコ人、インド人など多様な人種と隣接する毎日。明治の曙からトア・ロードには英語と中国語が飛び交い、当たり前のように異国人の衣食住文化と接してきたコスモポリタンな神戸市民にとって、ミナトの船から次々と出現する新しい「舶来モノ」に興味を示すのは当たり前。洋風建築デザインの商館が林立した海岸沿いの街を闊歩し、東洋一とうたわれたオリエンタル・ホテルで舌鼓を打ち、世界中の商船の船員と盃を交わし……。いつしか進取の精神が育まれてゆく。
・世紀末のアール・ヌーヴォーから1920年代のアール・デコへ。当時のポストカードやパンフレットに描かれた神戸のデザインは、どれも美しい。旧居留地や、すずらん灯のともる元町商店街には英語看板が立ち並び、景観にもハイカラさが目立つ。
・滋賀と並んで、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの遺産の多いのも神戸の特徴か(34章)。

著者は警鐘を鳴らす。現在の神戸は、イメージ先行的な「神戸ブランド」に胡坐をかき「ミニ東京」への道を歩んでいないか、と。そうだ、文化はわれわれが誠意をもって育み、次代に継承していかねばならないのだな。「暮らしの中での自然な異国情緒」(p117)という神戸らしさを大切にしよう。

神戸レトロ コレクションの旅 デザインにみるモダン神戸
著者:石戸信也、神戸新聞総合出版センター・2008年11月発行
2020年7月24日読了
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国家に煽動された男たちが軍国主義にのめりこんでいった時代に、蕗谷虹児が渡仏した1925年に『令女界』誌上でパリのアール・デコ文化がリアルタイムで日本の女学生に紹介され(p7)、宝塚と松竹の歌劇団が活躍しはじめ、優雅で上品で凛とした内面の強さを持つ(p4)少女たちをはぐくんだ女学校文化が花開いた。華やかな文化は確かに存在したんだな。
・テレビもネットもない時代、彼女たちの心のよすがとなったメディアが『少女倶楽部』『少女画報』『少女の友』『令女界』の四大雑誌である。川端康成、吉屋信子、中原純一、加藤まさを、高畠華宵による詩に小説にグラビアに、読者投欄。ビッグネームの揃う紙面はさぞは楽しかったんだろうな。
・恋愛どころか異性との接触も禁じられた女学生にとって「エス」と「靴箱に忍ばせる秘密の手紙」がどれほど重要だったかがわかる。
・女学生ライフ(p75~)、女学生言葉エトセトラ(p85)、乙女の悩み相談(p93)は時代と世相が伝わってくる。

大正・昭和初期の高等女学校。その優雅・可憐にして悩み多き生徒たちの生活を垣間みられた気がする。興味深く読ませてもらった。

女學生手帖 大正・昭和 乙女らいふ
編著者:弥生美術館、内田静江、河出書房新社・2014年12月発行
2020年7月23日読了
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1908年から1917年にかけて発表された7つの短編を収録。
『The Bruce-Partington Plans ブルース-パーティントン設計図』
黄色がかった濃霧が深く立ち込めるロンドンは、大陸の諜報員が暗躍する街でもある。ある未明に地下鉄線で発見された若い設計技師の遺体。その懐に残るはイギリス海軍設計局から盗み出された最新鋭潜水艦の設計図の一部だ。だが、行方不明の残る3枚こそが国の行方すら左右する決定的な重要書類であり、海軍省、政府・内閣だけでなく”ウインザー城に住まうさる高貴な婦人”の心情をも乱すこととなる。そんな国家的危機に際しても、民間人ホームズの頭脳は冴えわたる。
この犯行のトリック、当時(1908年)の読者にはさぞ新鮮に想えただろうなぁ。
「テーブルからさっと立ち上がるのが、わたしの答えだった」(p137)ホームズの問う重たい誘いに躊躇しつつ、次の瞬間には友人のために法に反する行為にも加担するワトスンの勇気は素晴らしい。これもホームズ物語の素晴らしさの一つだ。
ホームズ短編物語の五指に入るといわれる本作。納得の出来です。

『Wisteria Lodge ウィステリア荘』
屋敷に招待され、突然の殺人事件に巻き込まれた男は、絵にかいたような保守的な英国紳士。捜査の過程から、英国の田舎にこもって姿を見せない「高貴な」人物とその家族の存在が明らかとなる。スペイン語、混血の使用人、ヴードゥ教の儀式と未開の原住民。これだけでもミステリーとして期待が持てるというもの。
そしてノンキャリアの地方警察官、ベインズ警部が頼もしい。
コンゴ自由国(!)を私物化して住民を酷使・殺戮したベルギー王レオポルド2世を控えめに非難するためか、その植民地を南米サン・ペドロなる地名に設定して物語は展開される。しかし、その原住民の姿と言ったら……20世紀初頭の英国でも、この描写が受け入れられていたのか。

『His Last Bow 最期の挨拶』
時は1914年8月、60歳を超えて首相の直々の国家的要請を受諾し、準備にかかった時間は実に2年。祖国のために大捕物をやり遂げたホームズ。敵はイギリス国民よりも一枚上手のドイツ人スパイだが、祖国のために全力を尽くした彼を、同様にイギリスのために尽くしたホームズは蔑視しない。これぞ紳士というものか。

他に
『The Devil's Foot 悪魔の足』
『The Red Circle 赤い輪』
『The Disappearance of Lady Frances Carfax フランシス・カーファックスの失踪』
『The Dying Detective 瀕死の探偵』
を収録。

スピンオフ作品は多数あれど、やはり本家は何かが違う。オリジナルの挿画とオックスフォード版の充実した解説により、ホームズの世界を思う存分楽しめる一冊である。

His Last Bow
シャーロック・ホームズ全集8
シャーロック・ホームズ最後の挨拶
著者:Sir Arthur Conan Doyle、小林司、東山あかね(訳)、河出書房新社・2014年9月発行
2020年7月18日読了
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シャーロック・ホームズ最後の挨拶 (シャーロック・ホームズ全集)
アーサー・コナン ドイル
河出書房新社
2000-06-01


アイルランド、西インド諸島、北米13植民地、カナダ、オーストラリア、そしてインド。帝国が拡大し、やがて解体する様相が初期の暴力集団=海賊、移民、奴隷制度、宗教的情熱、軍事的侵略、そして帝国間対決による経済的衰退の観点から解説される。
・「共和国」アメリカの反乱の衝撃。本来は容易に鎮圧できたはずの「植民地の反乱」を成功させた要因は何か。グローバルな視点からのフランスとの確執、合衆国の独立がもたらした黒人とインディアンの悲劇が語られる。そしてイギリスの政策の転換により、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの独立戦争は回避され、こんにちのコモンウェルスの成立に至るのだ(第二章)。
・19世紀の奴隷制廃止に至る道筋は、昨今のNGOを彷彿させるとともに、イギリスらしさを感じさせる。ただしこれが文化帝国主義の幕開けでもあったのか(第三章)。
・デイヴィッド・リヴィングストン。貧しい生まれながら独力で成功を勝ち取った医師にして宣教師、そして探検家。まさに19世紀のスーパーマンである。彼がアフリカ南部での布教の失敗を認め、アフリカ自身の発展のために探検事業に乗り出し、ヴィクトリアの滝、ザンベジ川=文明化のためのハイウェイを見出したことは感動的でさえある。だがしかし、彼の成功もインドで発生した大反乱=「文明の衝突」(上巻p226)によって影を落とされることは、当時のグローバル社会である帝国を維持・発展させることの困難さを物語る。
・自由主義から階級主義(血統主義)への揺り戻し。インドにおけるカーゾン副王の所業は時代認識を軽視し、かつてイギリスに存在した階級社会をインドにおいて実現しようとするものであったか
・総じて大英帝国は、なかんずく大日本帝国と比較して「最良の統治システムであった」ことを著者は明確にする。特に南京大虐殺とビルマにおけるイギリス人捕虜による鉄道建設をクローズアップし、アジア人の野蛮さを強調している。日本語でいくら反芻しようが、「レイプ・オブ・南京」は唯一の英語で著された「史実」として、これからも語りつがれるのだろうな(下巻p182~)。

大英帝国は植民地のナショナリズムによって解体させられたのではなく、他の邪悪な帝国:ドイツ、イタリア、日本と熾烈に戦い、その財政負担によって崩壊した=犠牲になったのだ著者は結論付ける。いわく「これだけでも、イギリス帝国がこれまで冒したすべての罪の、罪滅ぼしとなるのではないだろうか?」(下巻p220) なるか!

自由主義、自由経済、英語による意思疎通。それらをあまねく普及させたのが大英帝国であるのは確かに疑いない。だが、帝国主義を脱した「新しい帝国による世界統治」、その功利を著者は説くが、それは必然的に、支配するものとされる者の区別を生み出す。それを当然と考える時代は過ぎ去った事実に、著者は未練を感じているのだろうか。

EMPIRE : How Britain Made the Modern World
大英帝国の歴史(上)膨張への軌跡
大英帝国の歴史(下)絶頂から凋落へ
著者:Niall Ferguson、山本文史(訳)、中央公論新社・2018年6月発行
2020年7月4日読了
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大英帝国の歴史 上 - 膨張への軌跡 (単行本)
ニーアル・ファーガソン
中央公論新社
2018-06-07

大英帝国の歴史 下 - 絶頂から凋落へ (単行本)
ニーアル・ファーガソン
中央公論新社
2018-06-07




本書の出版は昭和4年。90年も昔となれば、ロンドンの様相も現在と異なるのが当たり前か。当時のロンドン・ミュージアムはランカスター・ハウス(セント・ジェームズ宮殿の隣、ダウントン・アビーの舞台だ!)にあるし、トラファルガー広場の周囲は道路で囲まれ、ナショナル・ミュージアムとは隔たれている。グランド・ホテルもセシル・ホテルも健在だ。
・世界の海を制覇したのは、もともとはイギリスの土地に由来する「食物の不足」からであるし、その冒険気質が新領土の開発を即したといえる。そして18世紀の産業革命を経て、幸運に国内に豊富に眠る「石炭と鉄」が産業化を加速させた。これ天恵なり、とある(第1章:地理的特徴)。
・婦人参政権(婦人有権者525万人)の実現は1925年と遅かったんだな。
・38万マイルに及ぶ海底ケーブルの約半数を英国が占めていたんだな(p89)
・英国人気質の一例「われわれイギリスではそんなことはしない」と外国人に言うが悪意はなく、slow but steadyの精神をもって日々を生き(p96)、草木を愛でる(p114)。島国の人間として親近感がわくな。
・なるほど、ケルト語のLly-din(湖沼の砦)転じてロンドンか(p134)。そして当時の英国の人口の6分の1、750万人が世界一の大都市ロンドンに住んでいたのか。
・当時のロンドンは造船・海運が盛んであった。大規模な造船所に加え、埠頭ではなんと7百基以上(!)もの荷物用クレーンが稼働していたという(p161)。
・英帝国の版図は陸地の5分の1を占め、人口は4億8千万人。これは世界人口の4分の1(!)である(p286)。その植民地と商工業の拡張は英国にとって絶対であり、国際連盟に抗ってでも独自の外交政策が生まれてくる。
・覇権国ならではの「世界政策」の遂行。「光栄ある孤立」というが、その実は度重なる同盟による戦争の連続だったし、19世紀にロシアの南下を絶対的に阻止し、ドイツの東方政策を欧州大戦(第一次世界大戦)によって粉砕したのは、植民地、特にインドとの連絡線を維持する観点からみると納得がゆく。大戦後は共産的ロシアと絶大な物量を誇るアメリカの挑戦を受けて圧迫される英帝国の立場が、同時代的観点から解説されるも興味深い(第14章)。
・その他、労働問題、文学、教育、地方都市、軍事に渡って英国が解説される。

先のコロナ禍でのボリス・ジョンソン首相の感動的な退院スピーチにみられた通り、その「剛健にして情義の熱い」「自己批判の余裕を有する」(p326)国民性は変わらないのだな。良き時代のロンドン。いまではその街と人を観ることはかなわないが、本書を通じて当時を小旅行した気分に浸ることができた。

世界地理風俗大系 第十巻 イギリス
新光社・1929年4月発行
2020年6月13日読了

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天才医学者の復讐劇。それは未曽有のバイオテロとなって全世界を襲う。世界を救う条件は、息子を死に追いやった旧1年B組の生徒23人の「命」。億単位の懸賞金がかけられた彼らのサバイバルは過酷なものであり……たった一人の少年の懸命な行動が、ヒトのあり方をわれわれに問いかける。
・登場人物の電話、ビデオメッセージ、確保された容疑者の語り、交渉者。場面を変えて話は進められる。
・神の左手と悪魔の右手を持った人外の存在(p237)。天才的な犯罪者に対峙するに必要な資質とは?
・九千九百九十九人のヨブとは異なる「彼」の選択。タイトルを見事に回収する最終章には唸らされた。

次を知りたくなるダイナミックな構想といい、一気に読ませてくれるスピーディーな展開といい、絶品だ。ここしばらく体験していなかった純粋な物語の楽しみを堪能できた。

たとえ、世界に背いても
著者:神谷一心、講談社・2015年5月発行
2020年6月7日読了
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たとえ、世界に背いても
神谷一心
講談社
2018-05-18


ヴィクトリア朝時代に流行した絵画を題材に当時の社会と人々の生活を詳しく眺める一冊。後世に名を遺した作家や作品でなく、当時流行した作品を扱うところが本書の特徴となる。なかでもヴィクトリア朝時代に名を上げたものの忘れ去られ、近年再評価されるに至ったウィリアム・パウエル・フリスとエドウィン・ランシアの二人の作品が際立っている。
・第二章ではプラットホームに蝟集する多様な階級・職業の人々が魅力的に描かれた作品、ウィリアム・パウエル・フリスの『駅』が取り上げられる。1850年前後の英国の経済的繁栄は労働者の生活上の不満を吸収し、彼らの政治上の要求は革命ではなく従属を選ぶに至り、繁栄の余波を楽しむこととなる。労働者といえども近郊への日帰り旅行を楽しめる時代になったのだ。貴族様と労働者の混交する『駅』の情景はこんにちと変わりなく猥雑であり、表層の繁栄と群衆の中の孤独がみられる。
・二つの国家。ヴィクトリア朝英国を二分する「ミドルクラス以上」と「ワーキングクラス」。後者の中でも貧困を極めた人々が行き向かうのが国の貧窮院であり、公営の臨時宿泊所であった。困窮をテーマにした絵画作品がロイヤル・アカデミー展に出品されると、「自らと違った人々の姿」を観ようと人々が押し寄せたことが第十章で述べられる。「理想美」からかけ離れた時事的なテーマの作品は批判されるも、社会問題を扱う報道写真的な作品=新しい歴史画の出現は、美術史上の一大事件だったとわかる。
・もうひとつの英国の分断が男と女だ。男尊女卑なんてレベルではない当時の常識は、哀しみに暮れる数多くの女性を生み出すこととなる。オーガスタス・エッグの『過去と現在』(p94~95)に描かれた女性たちの悲運は、のちの過激な女性権運動をすら正当化するものであろう。
・第十八章、ウィリアム・パウエル・フリスの『ロイヤル・アカデミー展の招待日、1881年』が興味深い。ヘンリー・アーヴィングとエレン・テリー、リリー・ラングリー、オスカー・ワイルドに、唯美主義者のドレス(エステティック・ドレス)をまとう若い女性と多彩な参加者の熱気が目前から伝わってくるような圧縮された画面構成は圧巻だ。そのエレン・テリーの生涯も第十二章に詳しい。
・こころを奪われる絵というのは存在する。『ジェイン・グレイの処刑』(p252,なんどもナショナル・ギャラリーで鑑賞した)、『同情』(p219)、『選択』(p135)が僕にとってのそれだ。後ふたつは、いつか現物を観たいな。

「選り抜きの情報だけを伝える絵画芸術の雄弁さ」(p195)が、ヴィクトリア朝社会における関心ごとをあからさまに甦らせてくれる。いわば時代を追体験するという楽しい時間を得ることができた。

ヴィクトリア朝万華鏡
著者:高橋裕子、高橋達史、新潮社・1993年11月発行
2020年6月2日読了
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ヴィクトリア朝万華鏡
達史, 高橋
新潮社
1993-11T


いつのころからか天より降り出した桜の花弁、アマザクラ。数少ないアマザクラの降る町である九重町で、私、神屋敷ツバサは幼馴染である環木ヒヨリの秘密を知っていた。疎遠となっていた彼女との関係は、高校2年の初夏、紫々吹ルカの転校してきたことによって少しずつ、少しずつ変わってゆく。
・第Ⅰ章「空と君の秘密」の丁寧な進行には好感が持てる。そしてバイク少女のいきなりの問いかけ「アマザクラの秘密を知ってるな?」から、物語は大きく動き出す。
・カラオケボックスでの心の探り合い、過去のメールに発見するキーワード「峰山」、絶妙なタイミングでのルカからの電話。第Ⅱ章「花屑抱きしめて」の終盤から、物語は俄然盛り上がる。
・愛里。そう、大切な人のためなら、人は何でもできるんだな。
・フライさんの挿画がなんともいえない味を醸し出しています。ライトノベルの醍醐味。(ただしp192のイラストは? 3年前の出来事なら、中学校の制服のはずだが……。)

そして友情は、世界の色を塗り替える(第Ⅵ章「101個目の願い事」)。その色が「希望」につながれば、なお良いな。
ヒトを知り、痛みを知り、こころが谺(コダマ)する瞬間、少女は強くなる。ベタな展開といえなくもないが、心地良い読後感を得られた。

サクラの降る町
著者:小川晴央、イラスト:フライ、京都アニメーション・2020年5月発行

アニメ版はBlu-rayディスク全巻を揃えている。『リズと青い鳥』を含む劇場版4作も観に行った。しかし、まだ何かがもの足りない。そこで作品の原点=小説を読んでみることとした。
・部室の外での「あがた祭」への誘い合いは、まさに青春だな。「え、何その反応。感染したかのように、久美子の顔にまで熱が集中する」(p183)この秀逸なシーンはアニメ版よりも感情が凝縮されているな。
・麗奈の挑戦的な言動、特にソロパート発表の後の音楽室でのそれは、孤独さと強さを強調する。「ねじ伏せたるわ、そんなもん」(p262)にはしびれるな。
・蒸気→上気した彼女の頬(p258)。この誤字は修正されないのかな?
・あすかの、常人を超越したような態度も印象的で、キャラが立っている。「あの分厚い仮面を剥ぎ取るのは……」(p290)

音楽への情熱に気づく青春劇、そして訪れる感動。京都府大会本番前の秀一との「邂逅」シーンは素晴らしい。
続編も読み込まなくては!

響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ
著者:武田綾乃、宝島社・2013年12月発行

チャールズ・ディケンズ23歳。身に付けた速記術を駆使しての新聞記者の手腕を唸らせて、ジャーナリズムの草分けとしての名声を確実に得てゆく。教区篇、情景篇、人物篇の三部で構成される"スケッチ"は、まるでその場で見て聞いているかのような臨場感あふれる筆致でロンドンの昼と夜を描写する。
・1830年代ロンドンの悲惨極まる庶民の暮らし。わが物顔で街を跋扈する教区委員と民生委員のお歴々。差し押さえ業者の下僕だった(激しい選挙戦を勝ち抜いた)新任役人の生々しい話、紳士たちの所業、中流家庭のミス/ミセス率いる複数の婦人会の競争の激しさ。『我らが教区篇』の描写は悲喜こもごもだ。
・人もまばらな早朝の街角、高級住宅街もいまは貧民街の『セブンダイヤルズ』の昼間の喧噪、等、『情景篇』はロンドンの街と人々の生の姿を描き出す。それにしても一着の古着、少年用のスケルトン・スーツから一遍の哀しい家族の物語を紡ぎだすディケンズの想像力は大したものだ(『モンマス・ストリート瞑想』)。縁日に群がる老若男女の様子をおもしろおかしく縦横無尽の筆で語りつくす『グリニッジ・フェア』は、その場の喧騒がダイレクトに伝わってくる。
・『人物篇』では下層ミドルクラス、ワーキングクラスの労苦と楽しみがあぶりだされる。現代日本とあまり変わらないな。

短編小説は12編を収録。
・『Mr Mins and his Cousin 決断の時』犬と子供嫌いのミンズ氏のもとにやってきたのは……。ディケンズ21歳のデビュー作。一流のドタバタコメディは強烈におもしろい。
・『Horatio sparkins 然るべき人物』投機で成り上がった中流階級一家の「貴族趣味」を語彙豊富に語る小喜劇。小説の面白さここに極まるといったところ。
・『The Steam Excursion 晴れのち曇り、こともなし』テームズ川を下る船上パーティでの二つの家族の見栄の張り合いに、ギター演奏に歌曲に、揺れる船内でのディナーに、泣き叫ぶおぼっちゃま。ニヤニヤさせられた。
・『Passage in the Life of Mr.Watkins Tottle 結婚、ああ結婚』ワトキンス・トトル氏に振りかかった難儀』は50代独身男の求婚話をめぐるコメディ。こうはなりたくないなぁ。
・『The Drunkard's Death憐みの祈りもなく』家族を抱えながら酒に走り、悲劇は悲劇を呼び込む……。散り散りになった家族の哀れさが涙を誘う。本書随一の悲しいストーリー。

他に『The Bloomsbury Christening 二つの戒め』『Mrs. Joseph Porter 'Over the Way'幕は上がった』など。
やはりディケンズ! 人物や情景の描写力は群を抜き、話の展開も面白すぎます!

Sketches by Boz
ボズのスケッチ
著者:Charles Dickens、藤岡啓介(訳)、未知谷・2013年6月発行
2020年5月18日読了
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ボズのスケッチ
チャールズ・ディケンズ
未知谷
2013-06-19


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