UNHCR関係から手に取り、そのまま購入した。
短篇が6編。自分の意志で職業やライフスタイルを選び、または勝ち取り、恋愛と仕事の狭間で悩むキャリアウーマンの姿が光る。
「器を探して」
プロポーズが予定されているクリスマスイブの夜、女社長=オーナーパティシエに命じられ、新作プディングに合う美濃焼を探す旅に出た弥生。
魔術的な洋菓子の才能に魅入られ、専属秘書となってはや10年。マスコミに持ち上げられ、有頂天になった社長を支えるのは自分しかいない。そんな自負があるからこそ、自分の恋愛運のなさをなすりつけてくる行為にも耐えてきたのだが……。
「犬の散歩」
ある日、使命に目覚めた専業主婦。その資金繰りのために始めた「夜のお仕事」から、翌日の夜のお仕事までの物語。
ビビとギャル、二匹の犬が少なからず人生観を変える、か。犬を飼いたくなってきたぞ。
「守護神」
一口に社会人学生と言っても、様々な職業と年齢、学業に費やせる時間の違いがある。残業に追われ、職場の理解を得ることもできず、志半ばに去ってゆく学生たち。そんな彼らの救いの女神が、ただでレポートの代筆を引き受けてくれる「彼女」だった。
単位を稼げず、必須レポートの期限も迫り、ようやくのことで「彼女」を探し出した30歳フリーターの社会人学生。だが、「彼女」がレポートを引き受けるのには、ある条件があった……。
「鐘の音」
類い希なる仏師の才能を有しながら、納得できる作品を生み出せない苛立ち。修復師として新たに出発した主人公は、ある仏像に出会う。不空羂索(ふくうけんじゃく)観音像。3ヶ月に渡る修復の過程で、観音像と一体になるのを悟る主人公。濁世から脱したとの思いが、ある事件を招いて……。
内容にグイグイ引き込まれた。この作品こそ、本書の最高傑作だろう。
[ジェネレーションX]
かつての新人類と、新しいケータイ世代の対峙。これは読み流しだ。
「風に舞いあがるビニールシート」
NHKでドラマ化されたな。
投資銀行からの転職先は、国連難民高等弁務官東京事務所。元上司であり、2年前に離婚した夫のエドがアフガンで死んで3ヶ月。放心状態の続く里佳に、上司のリンダは荒療治をしかける。
華やかな国際公務員だが、フィールド勤務の多いUNHCR職員の場合、1年のうち、夫婦が一緒に暮らせるのは、わずか10日あまり。そのわずかな「日常生活」でさえ、すれ違い、きしみ、夫婦の絆を保つことの難しさが浮上する。
なぜか、暖かな家庭生活を拒み、何もない生活こそ自分の居場所だと言い張る夫。その理由を里佳が知るのは、偶然にもアメリカ人の夫が命と引き替えに助けたアフガン人少女の言葉だった……。
結婚しても必ず肌を離して眠る夫の行動の理由が明らかになる。そして、里佳は決意する……。
感動作です。
風に舞いあがるビニールシート
著者:森絵都、文藝春秋・2006年5月発行
2009年8月8日読了