かつて冷戦が終了して間もない時期、カンボジアに自衛隊・警察を派遣する、しないで揉めに揉めたPKO、国連平和維持活動。当時のガリ事務総長の思惑もあり、旧ユーゴスラビアでの活動内容を強化する等の提起もみられ、日本国内でも議論が沸騰したのはもう昔の話。いまでは紛争地派遣が当然のこととなり、自衛官、警察官、民間人ひとりひとりの現場での活躍や苦労が報道されることはほとんど無くなってしまった。
そこへ第二代南スーダン大使の筆による本書の登場である。日本からあまりにもかけ離れたアフリカ・南スーダンで、自衛隊施設部隊の他には「オールジャパン」の国際貢献が行われたことはほとんど報道されなかったことを鑑みて、一読の価値ありと思い購入した。
難民・国内避難民が400万人以上、実に国民の1/3を占める(p12)という凄まじい状況下の新生国家、南スーダンにおける「日本ならではの貢献」とは何であったか。その実績と今後の指針が本書にはある。

・周辺諸国を中心とする政府間開発機構IGAD、アフリカ連合AU、米国・英国・ノルウェー、中国・イタリア・エチオピア、国連安保理など国際的アクターが輻輳し、加えて南スーダン政府、反政府勢力の強硬的な姿もある。この中で日本の立ち位置と役割を定めることは、相当に骨が折れたことと思う(p29)。
・第1章では南スーダンの構造的問題、その歴史と国際環境が解説される。1922年からのイギリスによる南北スーダンの分割統治(p35)、1954年以降の南スーダン自治要求の否決……このあたりが内戦・騒乱の遠因か。
・PKO活動、ODAによる支援、NGOの貢献は重要だが、根本的な問題解決、すなわちアフリカの平和と安定のためには「政治プロセスへの積極的な関与」が必要であることが特記される(p61)。大使みずからが月に一度の割合で地方へ足を運び、地元民の意見を聴取した成果が、ジュバ政府の和平取り組みへの支援につながった。また反政府勢力を取り込む「国民対話」構想の推進に関してドイツ、国連開発計画UNDPとともに日本がイニシアティブをとったことは素晴らしいことだと思う(p62~)。
・1992年カンボジアUNTACの時代から様変わりしたPKO国連平和維持活動。ボーダーでの兵力引き離しと監視から平和構築・治安維持までその任務は拡がる一方だが、南スーダンでは、特に政府反主流派脱退以降は「文民保護」が主な任務として据えられた。第2章では、国連南スーダン共和国ミッションUNMISSと、日本人として参加した自衛隊施設部隊・司令部要員、警察官、文民の貢献が紹介される。著者が「現地での実践で実感」した、安全な活動のよりどころとしての存在、人道支援活動の基盤としての存在、治安回復の基盤形成の触媒として、PKOの役割は重要視される(p74)。
・自衛隊員の規律の高さがUNMISS全体に与える好影響(p80)、同じく、施設部隊が現地に駐留(プレゼンス)し、その可視・不可視の活動が現地に与えるインパクトの大きさ、現地からの感謝が実例をもって提示される。「ODA-PKOタスクフォース」(p83)も、各国派遣部隊、現地民との交流への積極的な企画・実践(p89)もなかなか興味深い。
・後半はJICA、NGOによる開発支援・人道援助が述べられる。軍事に国家予算を集中し、社会サービスをもっぱら国際支援に頼る構造的問題。また人道アクセスに問題のある政府にどう対峙するのか。支援の是非を含めて欧米諸国と日本で主張に乖離があったとは知らなかった(p105)。
・UN Womenと連携しての女性に「手に職」をつけるプロジェクト、献血制度の創設、地雷除去、警察支援(地域コミュニティ警察、110番緊急通報)、さらにはプロジェクト・マネージャー育成など、現場のニーズに寄り添った日本独自の「細切れ作戦」(p154)はすばらしいアイデアだと思う。
・NGO支援の問題。「人道目的とはいえ、国費を使う以上は国益のためということになる」「(日本人の)危険地域での活動」への大使館としての責任(p186)。指針は明確だな。
・Made in South Sudan。日本への輸出品第一号は「ハチミツ」か(p200)。
・アクターが多いと何事も一筋縄ではいかない。それゆえ日頃からの良好な関係構築がものをいう、か。

平和国家日本の「世界史的使命」(p220)。この重い言葉を胸にとどめて書を閉じた。
「施設部隊ジュバ撤退」「邦人脱出勧告」等の断片的なマスコミ報道から、南スーダンでの支援はうまくいかなかったとのイメージを持ちつつあったが、とんでもない誤解だった。人道援助、平和構築、開発支援、政治プロセスへの関与など、従来の個々の国際貢献のあり方を超越した「オールジャパン」による「パッケージ」的な支援により、紛争地に安寧と未来をもたらすとともに、現地、ひいては周辺諸国の人々に「日本人」の好イメージを持たせたであろうことは極めて重要な成果といえよう。
伊勢崎賢治さんの「武装解除」も衝撃的だったが、今後、本書のような現地統括者の著書が新書・文庫のかたちで数多く出版されることを望みたい。

[補記]
国際地雷デー。「2017年の国連事務総長賞を受賞した」合唱・演劇コンクールと地雷啓発ミュージック・ビデオ(p163)。本書にurlの記載がなかったので、ここに貼っておきます。

南スーダンに平和をつくる 「オールジャパン」の国際貢献
著者:紀谷昌彦、筑摩書房・2019年1月発行
2019年1月27日読了
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